1289172 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

突然に (2014年 予備)

コスモスの30首詠、O先生賞に応募のために、二連まとめたうちの一連で、これは応募しなかった方です。

応募よりも、自分の記録として残しておく方が似会うと思ったので。



  突然に (岩崎輝子さんへ)       

クリスマスを控へて霧の深き夜に岩崎さんは逝きてしまひぬ

ビリビリとガラスに響く冬雷のやうに届けりきみの訃報は

伝へるも伝へらるるも憮然たり六十代の女(ひと)が逝きしに

驚きて悲しみてやがて羨しめり 思ひもかけぬきみの旅立ち

生前の君のくちぐせまねてみる「なんとかなるわ。なんとかしましょ」

春浅く辛夷の枝先けぶる頃あなたを偲ぶ会に集へり

会場の君の写真と目が合へりわが知らざりし少女(をとめ)の頃の 

「わたしなら大丈夫よ」といふごとく写真の君の眼差し勁し

「納得が行くまで質問する人」と任(イム)牧師さんがあなたを偲ぶ

「死によりて永遠(とは)の命が得られる」とは信じられぬが否定はしない

神様を身近に感じ生きること それも才能なのかもしれぬ

「カナダには私が輝子を招びました」もとの夫君が経緯を話す

それ以来一時帰国はしていない輝子さんなり覚悟強くて

「日本では女優で映画に出ていた」とあなたの旧き友のスピーチ

侍女役であなたの出たる映画の名ネットで探すとメモをしておく

次々と生前の君語られて多面体なるひと世輝く

ダンス、釣り、謡、コーラス、また短歌 あとなんだった?君の得意は

「コスモス」を退会してもわが短歌(うた)に確かな評をくれたり君は

堂々と率直なりし輝子さん鋭きこともさらりと述べて

遠慮せずスパッと詠めと君は言ひもどかしげなりきわたしの短歌(うた)が

「連作の最初の歌は派手にしてもつとパンチを効かせたいわね」 

「人生の赤き糸ふとよぢれたり」君の処女作今に忘れず

鈴木英夫『壁画』読み込み終へし頃あなたの歌は簡潔になる

切れ字の「や」をうまく使ふと鈴木師に褒められゐしは輝子さんだけ

旅立ちの十日ほどまえ詠みましき「わが身のめぐり空が来てをり」

逝くことを意識してゐし君なるか〈悟り〉のこころ短歌(うた)に漂ふ 

遺されて新たな命を得しごとくあなたの歌は立ち上がりたり

死の側に渡りし君の短歌(うた)たちはもうこれっきり 増ゆることなし

励み合ひ共に短歌を学びたる二十余年は過去となりたり

君逝きて半年が経ち街路樹の辛夷のみどり色を深める


© Rakuten Group, Inc.